4.16

 まずお話いただいたのは実際に今UXデザインがとても重要視され始め、デザインのアプローチとしてとても大きく見られているという点だった。日立ではUX設計部を設立する、東芝ではパンフレットに大きく記載するなど、たくさんの企業がUXに舵を切っているそうだ。

 企業がなぜそこまでUXに舵をとるのか、少し後では、「体験が商品そのものである」という言葉が出たことが印象的だ。例としてフィルムカメラについての説明があった。フィルムカメラが実際に発売されるまでは、ガラス乾板と呼ばれる方法で光を記録することが一般的だった。たくさんの工程が必要であり、光にさらさないように、ガラスを割らないように、という専門的技術が必要とされた。その一方で、新しく発明されたフィルムカメラはシャッターを切ることを「体験」として定義し、爆発的なヒットを生んだ。体験を商品にすることは、人間の欲求を満たし、人間をより良い場所へ向かわせる力があるのだ。

 

 上でフィルムカメラについてお話いただいたことを大きく取り上げたのは、私自身が写真を趣味にしている点から来ている。今はデジタルカメラが当たり前に使われており、デジタルカメラの「体験が商品そのもの」という部分に大きく当てはまるのは、現像をする必要がなくすぐに撮った写真を画面で確認できる、フィルムの残り枚数を機にする必要がない、データとして残る、などの点であろう。だがこのデジタルカメラの体験が円満した今日で、上で取り上げたフィルムカメラの体験がまたヒットを生んでいる。今フィルムカメラの体験は、独特の風合いや撮った写真をすぐには見ることのできないタイムカプセルのようなワクワク感、残り枚数を気にしながら丁寧に撮っていく感覚などが評価されているのだという。当時の最先端として扱われた体験の商品が、今また違う形の体験の商品になっているということではないだろうか。

 このような例はきっと他のジャンルでも見られるだろうし、もしかしたらこれから先デジタルカメラに変わる撮影方法が生まれた後、またデジタルカメラの体験が違う形で評価されるのかもしれない。色々な見方を気にかけていきたいと考えた。